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【後編】医療機器コンサルタントに聞く!
メーカー、認証機関両方の視点から考える薬事申請と大切な心構え

東京エレクトロンデバイス(以下、TED)およびTED子会社の東京エレクトロン デバイス長崎では医療機器製造販売業許可および製造業許可(設計および最終組み立て・保管)を取得し、医療ODMサービスとして機器の設計から製造まで医療機器メーカー様のものづくりを支援しています。医療機器開発においては、法規制および規格対応も重要で、TEDの取り組みに対して客観的な見地からアドバイスを頂けるコンサルティング会社様との協業が必要と考えています。

mk DUO合同会社(以下、mkDUO)では、医療機器に特化した法規制対応コンサルティングサービスを、「他分野から新規で医療機器産業に進入したいお客様」、「海外に製品を輸出したい日本のお客様」、「日本に製品を輸出したい海外のお客様」を中心に提供しています。

医療機器ビジネスは、新型コロナウイルスのワクチンと同様に、国によって認可をされたもののみが市場参入できる規制ビジネスです。医療機器開発は顧客ニーズ、技術シーズを考慮することに加えて、各国各地域で設けられている法規制に対応することが要求され、その要求事項は年々高まっています。

本記事では前編・後編に分けて、医療機器メーカーと認証機関での知見をベースにコンサルティングを提供されているmkDUO様に医療機器に関する海外・国内規制の現状と機器開発における大切な心構えについてお話をお伺いしました。前編では、日本と欧米で異なる医療機器法規制と文化的背景や、医療機器を開発する際の心構えについてお話しいただきました。

>>「【前編】医療機器コンサルタントに聞く!メーカー、認証機関両方の視点から考える薬事申請と大切な心構え」を読む

 

 


 

インタビューイー


mk DUO合同会社
COO 吉田 緑 氏
国内及び米系医療機器メーカー薬事部にて医療機器の薬事申請業務に従事。 その後、認証機関にて日本製品の海外輸出、海外製品の日本導入等をサポート。現在は医療機器の薬事申請や認証機関での薬事・QMSサポート経験を活かし、医療機器の海外・国内規制へのコンサルティングを行う。

インタビュアー

東京エレクトロン デバイス株式会社
PB営業本部
インレビアム営業部
東海林 康

 


 

複雑化する医療機器とセキュリティ

ホットトピックスとしては、サイバーセキュリティの課題がよくあがりますね。日本の薬機法では、2024年の4月からサイバーセキュリティ対応が義務化されました。サイバーセキュリティは市販前だけではなく、市販後も含めたトータル製品ライフサイクル(TPLC)の対応が求められます。また、従来は医療機器メーカーだけで対応していましたが、今後は病院なども含めた多数のステークホルダーも、共同での対応が必要となります。

 

・トータル製品ライフサイクル(TPLC)とは:製品が開発され、製造され、販売され、そして廃棄されるまでのすべての段階を含む、製品の全体的な寿命のこと

 

特に、製造販売後調査(PMS)要求とその対応方法は、日本に比べて欧米では要求レベルが高く、より頻度の高い市販後監視活動が要求されます。その複雑な仕組みの啓蒙活動や対処方法を提供していきたいと思います。

 

・製造販売後調査(PMS: Post-Marketing Surveillance)とは:医薬品や医療機器の販売が承認されて市場で使用された後、及び適用拡大の際にそれらの安全性を監視する手法の一つ*¹

 

加えて、3省2ガイドラインにより、関係者が増え、医療機器メーカー単独では解決できない状況になっています。たとえば病院内情報システムなどとデータの境界線をどこに設定するかなど、相談しながら決定する必要があります。

 

・3省2ガイドラインとは:厚生労働省、総務省、および経済産業省の3省が定めた、医療情報システムを安全に管理するための2つのガイドラインのこと*²

また、AIやサイバーセキュリティにより、従来ブラックボックスであったプロセスを、データフロー図を使って、ソフトウェア内でのデータの流れを可視化するホワイトボックス化、つまりプロセスを透明化して第三者に示すことが求められています。中身をホワイトボックス化するためには、リスクマネジメントが必要です。つまり、医療機器メーカー自身が製品の有効性と安全性を考え、それらを自己で検証する必要があります。

これまでは規格に基づいた試験によって適合不適合の結果を出してきましたが、近年の医療技術の進歩により、試験だけではすべてを判断するのに限界があると考えます。医療機器の多様化に伴い、その臨床性能や臨床的ベネフィットをリスクマネジメントし、メーカー自身で判断して決定する必要があります。そのため、当社ではコンサルティングを開始する際に、規制の捉え方や心構えからお話しする傾向に変化しています。

 

・臨床性能とは:医療機器が製造者の主張通りに目的を達成する能力
・臨床的ベネフィットとは:医達成した結果、患者に与える利益

 


 

認証取得に向けたゼロからのスタート事例

――御社のコンサルティングサービスにおいて、最も挑戦的だったプロジェクトは何ですか?

お客様が海外ビジネスの実績やCE要求に対する知識を持っておらず、さらに他のコンサルティング会社もサポートが難しい中で、MDD申請の対応期限が迫っていたプロジェクトです。

本案件は当社立ち上げ後の最初のプロジェクトでした。全体像を示しゴールから逆算し、具体的な事例やサンプルを用いて行動に結びつけたことで、申請プロセスの進め方が適切であることを証明し、当社の提供するコンサルティングスキームを構築することができました。

これは申請者側と審査者側の両方での経験が活かされた事例です。厳しい条件の中、期限内に全ての対応を社内で行い、第三者認証機関による審査を終え、CEマークを取得することができました。さらに、サービス提供当初は、EU規制や品質管理監督システム(QMS)に関する専門用語がまだ浸透していなかったですが、CEマーク取得時にはお客様の社内メンバー間のみで専門用語を使ってディスカッションができるようになっていました。私たちのサービスが伝わり、理解され、お客様自身のものとして活用されるようになった様子を見て、非常に感慨深いものがありました。

 

・品質管理監督システム(QMS)とは:日本の医療機器の分野においては、薬機法に基づいて定められている「QMS省令」(厚生労働省令第169号)を指すことが多い。QMS省令は、国際的な品質マネジメントシステム規格であるISO9001の医療機器向け規格である「ISO13485」をもとに日本独自の上乗せ規定を追加した、品質管理の基準となる省令*³

 

――文化を理解し、自らの意志で決定することは、開発や認証の準備などの実務とは少し別の部分に見えるかもしれませんが、今後の継続にあたっても重要なことですね。
――コンサルティングサービスを利用した医療機器メーカーが達成した、成功事例と成果があれば、ぜひ教えてください。

はい、他の成功事例としましては、原材料供給メーカーのISO13485認証を取得したことです。

 

・ISO13485認証とは:医療機器産業に特化した品質マネジメントシステムに関する国際規格*⁴

 

お客様は当初全くのゼロスタートであり、経験者もほとんどいませんでした。最初は医療機器やISO、QMSについての解説から始めていき、ISO規格の要求事項を平易な言葉で解説し、理解しやすいマテリアルや具体的なサンプルを作成・共有し、それらを使用して説明を重ねることで、より理解を深めてもらうことに努めました。

その結果、徐々にISO規格の用語での会話や積極的な意見や質問を得ることができるようになり、最終的にISO13485認証を取得することができましたが、それ以上に、ゼロからの認証取得がお客様自身の成功体験となり、今ではより深いQMS理解のもとでコミュニケーションを取れるようになったことは、この仕事をしていて個人的に大きな喜びを感じました。

 


 

顧客期待に応える姿勢が生んだ新たな視点

――御社とは今回はじめて一緒に仕事をさせていただきましたが、TEDに対してどのような印象を持ちましたか?

お客様のためにどうすれば良いかを考え、前向きに取り組んでいる会社というのが正直な印象です。TEDとのプロジェクトでは、エンドプロダクトメーカーからの委託開発に向けて、薬機法やQMS省令準拠した開発関連文書の作成、QMS文書見直しサポートのご支援、さらには内部監査やHFEのプライベートセミナーも実施いたしました。

また役割に関係なく、「プロジェクトを前進させるために」という信念に基づいて、御社内での調査や協力、そして時には、顧客の要望に応えるためにはどうしたらよいかという質問をいただき、私たちのサポートの必要性や価値が明確に感じられました。

まさに、TEDの経営方針「Connect Beyond~共に作る新たな価値を~」に基づいて、顧客期待と信頼に応える行動を取られており、前向きに取り組む姿勢は、本プロジェクト通じて個人的に大変勉強になりました。

 

――ありがとうございます。TEDチームとのコラボレーションにおいて、特に印象に残った点があれば教えていただけますか?

QMS見直しは限られた工数で煩雑な作業を迫られるケースが多いですが、より良くするためにはどうしたらよいかという視点で積極的なご質問や提案をいただきました。

また、プライベートセミナーでも、ただ聞いていただくだけでなく、日々の運用に落とし込むためにはどうしたらよいのかいった具体的なご質問を頂き、受け身ではなく能動的な姿勢が強く感じられました。

今後もTED側の見解や意見を、エンドプロダクトメーカーと同じ視点でディスカッションできるよう、フロントローディングで情報収集を豊富に行い、法規制などをさらに理解した上で提案していただけると良いかと思います。

 

――TEDとの初めてのプロジェクトを経験後、御社の将来の戦略や方針に何か変化はありましたでしょうか?

従来は、最終製品の製造販売を対象とする会社にコンサルティングを行っていましたが、TEDと仕事することによって、サプライヤーとしての医療機器開発製造の新しい視点から、コンサルティング提供できるようになりました。

これは当社としては稀な試みで、エンドプロダクトメーカーに対してのサプライヤーとして取るべき対応について改めて考えることができ、仕事の幅が広がりました。

今後は、サプライヤー側も法規制などを理解した上で、要求対応への提案をしていただくという視点を持ちながら、当社のお客様にコンサルティングを提供していきたいです。

 

――医療機器メーカーが市場で競争優位性を保持するためには、どのような戦略が重要だと考えますか?

クリニカルベネフィット(臨床的利点)を明確にすること、自分たちの強みをエビデンスで主張できること、そして会社規模にもよりますが、市場を絞ることが重要かと思います。

 

――御社のコンサルティングサービスが、医療機器開発企業のビジョンや成長戦略の実現にどのように役立っているか、具体例を教えていただけますか?

規制とビジネスは表裏一体です。先にも述べましたが自分たちの強みを明確にし、市場有意性を保つ、市場有意性があることをデータで示すことが重要です。

規制や規格対応は後回しにされることも多いですが、QCDRを融合し、ワンセットで考えられる仕組みを持っていることが企業のビジョンや成長戦略を実現する上で役立っていると思います。

 

・QCDRとは:Quality(質)、Cost(コスト)、Delivery(納期)、Regulation(規制)

 


 

インタビューを終えて

吉田様にコンサルティングをお願いしたのは2022年1月頃のことで、当時は新型コロナウィルス感染法上の5類に移行する前で、コミュニケーションをとらせていただくにも何かと不便が時期にもかかわらず懇切丁寧に、かつ多面にわたってアドバイスを頂戴しました。

QMSなど法規制対応などはもちろんのことながら、医療機器開発を担うものの『ものづくり』に対する心構えや我々が開発した製品がどのように社会貢献できるのかを常に意識することの重要性をご指導いただいたように思います。TEDの医療機器開発がお客様の期待と信頼にお応えできるよう引き続きご支援いただきたいと思っています。

>>「【前編】医療機器コンサルタントに聞く!メーカー、認証機関両方の視点から考える薬事申請と大切な心構え」を読む

 

 

*¹: MDV EBM insight「【製造販売後調査とは】3つの種類、市販直後調査との違い、流れなどを徹底解説」, https://www.mdv.co.jp/ebm/column/article/27.html
*²:株式会社日立システムズ「3省2ガイドラインとは」, https://www.hitachi-systems.com/solution/s0311/medinfo/guideline/
*³:せたがや行政法務事務所 医療機器薬事許可申請(製造販売業・認証・届出等) 行政書, 「医療機器のQMS・GVP省令対応方法等」, https://www.koda.biz/kiki/kiki_QMS.html
*⁴:日本品質保証機構(JQA)「概要 | ISO 13485(医療機器・体外診断用医薬品) | ISO認証」, https://www.jqa.jp/service_list/management/service/iso13485/

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