1. HOME
  2. 開発者に聞く!AI活用による目視検査の自動化

生産現場 計測・検査

開発者に聞く!AI活用による目視検査の自動化

近年、AI技術の進化に伴い、製造業界においては、画像処理を駆使した人による目視検査の自動化が急速に広まっています。品質管理の向上とコスト削減の期待が高まる一方で、人間の判断基準を効果的なアルゴリズムに落とし込むことが難しい場面もあり、その実現にはさまざまな課題が浮上しています。こうした背景を踏まえ、AIを活用した目視検査の自動化の舞台裏に迫り、画像処理の専門家の視点からその利点と課題について探究してみました。

 

 

インタビュイー

株式会社ファースト
営業本部 プロダクトR&Dグループ
宇津木 裕貴
入社後、ライブラリ開発チームでの経験を積み、その後、ロボットビジョンソリューションの業務を担当。現在では、3年前から所属する部署で新商品の開発に取り組んでいる。

 

 

強みは作業コストの削減と検査基準の一定化

――画像処理を使用した目視検査の自動化の強みと弱みについて教えてください。

なぜ画像処理で検査をしたいのか。それは作業コストの削減という財務の面と一定の基準で検査をしたいという品質向上の2つの理由が主であると認識しています。

画像処理技術を使って目視検査を自動化する強みは、この2つの課題を解決できることです。

目視検査を自動化すれば、費用対効果の見極めは必要ですが人件費の削減につながりますし、検査基準を一定にすることで生産品質が向上します。また、検査の自動化そのものだけでなく、検査結果と画像を履歴として残しておけることにもトレーサビリティとしての価値を見出していただける場合もあります。

一方、目視検査を自動化するにあたって、それまで熟練検査員の方々が個々に持っている検査基準という暗黙知を、その共通項をまとめあげて機械的な形を与えて形式知とする必要があります。

これはいくつものサンプルを使用して熟練検査員の方々のOK/NGの判断をAIに覚えさせる作業であり、お客様にご協力いただくことが不可欠です。ここが生みの苦しみです。弱みとは違いますが、この点が導入までの道のりのなかで大変な作業だと思います。

 

画像処理とは
撮像した画像から検出したい箇所の特徴を最適な数値(特徴量)として抽出する事。またその技術。
人間の五感の一つである視覚を代替する技術として古くより研究され、近年のAI技術により更に大きな発展を見せている。

 

――お客様はどのような検査に関する課題をお持ちなのでしょうか。

お客様が持っている課題は本当にさまざまです。

製造業界において、品質管理と生産プロセスの効率化は永遠の課題とされています。さまざまな業種のお客様から多くのお問い合わせをいただいています。

対象物の観点だけでも、大きなものから小さなものまで、柔らかいものから固いものまで、多岐にわたり、そこで求められるニーズも多種多様です。例えば、顕微鏡でしか見えないような非常に小さなキズの検査から、トラックの荷台の汚れ具合の検査まで、本当にさまざまです。

強いて傾向があるとすれば、目視検査として残されている工程は、これまでの画像処理技術では難しかったものがほとんどのため、お問い合わせの内容の技術的難易度は高いものが多いです。

 

AIは検査実現のための手段の一つ

――画像処理の専門家としてAIをどうとらえていますか?

お客様の叶えたい検査をどうやって実現するか。その手段の1つとしてAIをとらえています。

当社は1982年の創業以来、画像処理の専業メーカーとして、さまざまな業種の自動化をお手伝いしてきました。当時はモノクロの荒い画像を使用して、マシンスペックも限られる中で、その画像の一定以上明るい領域を白に、以下を黒にする二値化処理を行って、得られた白いまたは黒い領域のサイズや、幅、形状などの特徴を使って判定をしていました。

以降、カメラの解像度とマシンスペックの向上にも支えられて、画像処理の発展と共に歩んできたといっても過言ではないかもしれません。そして、それらを駆使したサービスをお客様にご提供してきました。

近年のAI技術は画像を見せるだけでOK/NGの判定ができるまでに成長してきましたが、これまでの画像処理と全く別物ということではなく、その延長上にあるもの、広義の画像処理に包含されるものと捉えています。

あくまで、検査をどうやって実現するのかの手段の一つにAIが使えるようになったということです。画像処理の検査には多くの手法が存在し、適切なものを選択、組み合わせて適用していくことが重要です。

 

株式会社ファーストについて
ファーストは、独自の画像処理技術を持ち、AI 評価ツールの製品化や画像処理ライブラリの製品化や、関連する画像処理装置、画像入力ボード等の開発・製造・販売を行っています。ファクトリーオートメーション市場を中心に事業展開しており、国内のほかアジア地域でも顧客基盤を構築しています。

 

――AIについてのよくある誤解ってなんでしょうか?

活用事例集のコラムにも書かれている内容になりますが、「AIならなんでもできる」という誤解があります。

例えば、AIを使わなくても二値化処理をすれば解決できる検査もあります。その場合は、AIを使わない方が効率的でリーズナブルだったりします。この辺りの見極めに、当社のような画像処理専業メーカーのこれまでのノウハウが活きていると感じています。

また、「AIは見えないものでも分かるだろう」という誤解もあります。見えないものはAIでも分からないです。見えるように撮ることは引き続き重要であって、そういった部分でもこれまでのノウハウが活きています。

当社はAIだけに特化しているというわけではなく、検査に適した最適なツールをご提案します。もし画像検査において困ったことや、実現したいことがありましたら、その辺りの細かい点を気にせずにご相談いただきたいです。

 

ルールベースとは
あらかじめ設定された条件や規則に基づいて、画像を処理するアプローチ。特定の条件や基準に従って、画像内の特定のパターンや要素を検出、分類、または変換する際に使用される。画像の特徴量化と、OK/NG判定ロジックを人手で設計する従来の「画像処理アルゴリズム判定のこと。

 

重要なことはお客様の本当のニーズを実現すること

――お客様の課題に対処するため、どのようなアプローチを取っているのでしょうか。

さまざまなお困り事がある中、当社の強みは現場で実現したいことを理解、共感し、それをそのまま形にしてご提供できることです。

「○○の目視検査を自動化したい」と言う叶えたいことがあれば、細かいことを気にせずに丸ごとお任せいただいています。搬送系やその後の運用方法などにも配慮の上、現実感があるご提案をいたします。

ときには、当初のご要望をそのまま実現しようとすると、後々の運用が大変過ぎると予想できたり、装置が高額になり過ぎたりすることもあります。そのようなときは、ここは実現不可能だから諦めませんかという提案をすることもあります。予算や課題、技術などの全体のバランスを見ながら運用までを見据えた提案をするようにしています。さらに、「こういうこともできますよ」という提案もしていきたいと考えています。

また、お客様の課題に寄り添い伴走しながらお客様のやりたいことをお客様と一緒に具体化していくことを心がけています。

例えば欠陥の目視検査の自動化を進める場合、OK品とNG品の境目を確認していく工程があります。その工程の中でお客様ご自身が改めて判断基準や必要な検査内容などに気づかれることで、本当に必要な要件が明確になることもあります。このようにお客様のやりたいことに多少の曖昧な部分があっても、お客様と検証を積み重ねて一緒に具体化していきます。

BtoCのコンシューマー向け、例えば洋服屋さんを例にすると、接客にて最初に「何かお探し物はありますか」と声を掛けられると思います。いくつか候補を見繕って試着させてくれて、色やサイズなどの相談に乗ってくれます。大多数のお客様は自分自身が欲しいものの姿かたちをハッキリと思い浮かべられてはいないので、潜在的に頭の中にある欲しいものに形を与えて具体化する作業を一緒に手伝ってくれる人が必要とされています。

実はBtoBにおいてもこれは一緒なのではないかなと思っています。

お客様からすれば、画像処理システムの技術の詳細よりも、ご自身の課題や要望などが一番重要なはずです。お客様が細かい点を気にせずに、当社の画像処理技術と必要に応じてAIを活用し、包括的な提案を提供できればと思います。時には予算の制約を考慮し、実現が難しい場合もありますが、最大限のサポートを提供いたします。

お客様のニーズを的確に理解し、協力して実現に向けて進化することが、私たちの目指す方向です。

 

AI活用による自動化の事例

――AI活用による検査事例を紹介していただけますか。

■パネル・ガラス製品の欠陥検査
現在、当社で最も一般的に使用されている検査事例の一つが、パネル・ガラス製品の欠陥検査です。ディスプレイパネルの製造プロセスでは、ディスプレイの点灯検査、ガラス表面のキズ検査、液晶の偏光板フィルムの不良検査などが行われます。これらの製品は出荷される際にガラス面にキズがつかないように保護フィルムで覆われていますが、内部の偏光板フィルムの欠陥と外部の保護フィルムの汚れを区別するのが難しい課題でした。ルールベースの画像処理では適切な判断が難しく、そのためAIを活用し、99.8%の高い正解率で判別が可能になりました。

当社は第二次AIブームの時期からこの領域に取り組んでおり、技術の進歩とともに、AIの深層学習が実現可能になりました。この検査を実現するには、約5000枚から10000枚の画像データをAIに学習させる必要があり、お客様の協力も不可欠でした。自動化にたどり着くまでのプロセスは労力を必要としますが、導入後はコスト削減と効率化に大いに貢献しています。

パネル・ガラス製品の欠陥検査

 

■射出成型製品の官能検査
官能検査とは、五感を用いて品質に違和感がないかを評価する検査方法です。以前、フィギュア全体の外観検査は人の目視検査に頼っており、人が手作業で実施する場合、判断基準には個人差や主観的な要素が影響し、一貫性を保つことが難しい場合もあります。

そのような課題を抱えていた中、フィギュア製品において、髭の濃さと瞳の擦れを自動化したいとの要望がありました。

髭の濃さの検査は平均濃度をルールベースで計測することで十分な精度で実現できましたが、フィギュアの瞳の擦れについてはルールベースでの判断が難しいため、複雑なパターンや基準に基づいて品質を判定するのに適しているAIを活用することで一定の品質基準での検査が可能になりました。このように、検査項目に応じてルールベースとAIを組み合わせることで、効率的で一貫性のある官能検査が実現しました。

射出成型製品の官能検査

 

全10件の活用事例、コラム、AI検査システム選定ステップガイドを掲載中!
「AI活用事例集」の無料ダウンロードはこちらから


※ご希望のダウンロード資料で「画像処理関連 資料一式」をお選びください

 

今後の展望

――今後の展望について教えてください。

我々は現在の技術だけでは満足せず、常に進化を続ける姿勢を持っています。急速に進化するテクノロジーの世界で、既存の機能だけでなく、新たな可能性にも挑戦し、お客様に最高の価値を提供することを目指しています。

例えば、食品の全周検査の事例を挙げると、「多方面から複数回撮像し検査する」という機能は最初から備わっていませんでした。しかし、この機能を導入することで、お客様の装置の正解率が50%から100%に向上しました。このような進化を通じて、さまざまな機能を向上させ、お客様にとってより価値のあるツールを提供していきたいと考えています。

 

――今、十分でないと感じている点はありますか?

具体例を挙げると、「画像内の特定の領域が”A”という特性を持つ領域であり、別の領域が”B”という特性を持つ領域である」といった情報を、塗り絵のような形式で出力する機能や、画像内から特定の対象物を自動的に検出する機能が存在します。これらの機能は、現在のツールには含まれていないため、今後のアップデートで組み込んでいく予定です。

また、AI開発ツールとして、年間サブスクリプションサービスを提供し、機能のアップデートを行っていきます。これにより、お客様の装置をより使いやすくし、新たな機能を追加することで、以前は難しかったタスクを実現可能にしたいです。


※ご希望のダウンロード資料で「画像処理関連 資料一式」をお選びください
 

関連記事 一覧

お見積り・資料請求・
技術的なお問い合わせ等

PAGE TOP