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産業機器・医療機器に不可欠な“信頼性”とは?
産業機器や医療機器は、長時間の稼働や高精度な処理が求められるだけでなく、過酷な環境下でも安定して動作する「信頼性」が不可欠です。
特に製造現場や医療現場では、機器のわずかな不具合が生産ラインの停止や医療ミスにつながる可能性があり、安全性と効率の両立が求められます。
本記事では、産業機器や医療機器に求められる信頼性の要素と、それを実現するための最新技術や対策について解説します。
目次
なぜ、産業機械に信頼性が求められるのか
信頼性とは“対象が、与えられた条件の下で、与えられた期間、故障せずに、要求どおりに遂行できる能力”と、JIS Z8115総合信頼性用語で定義されています。
この信頼性を確保することで以下の利点があります。
安全性の確保
産業機器が故障すると、作業員の安全が脅かされる可能性があります。特に、大きな装置では信頼性が低いと重大な事故につながることがあります。
生産効率の向上
信頼性の高い機器は、装置の故障や停止が少なく、安定した稼働が期待できます。これにより、生産ラインの効率が向上します。
ランニングコストの削減
頻繁な故障や修理が必要な機器は、メンテナンスコストが高くなります。またダウンタイムも頻発し生産性も低下します。信頼性の高い機器を使用することで、長期的なコスト削減が可能です。
最終製品の品質保証
製品の品質を維持するためには、使用する製造装置自体の信頼性が重要です。信頼性の低い機器を使用すると、製品の品質にも悪影響を及ぼす可能性があります。
顧客満足度の向上
生産効率の向上、コストの削減を行うことで、納期遅延や製品不良を未然に防ぎ、顧客満足を得ることができます。
信頼性を担保するには
製品の信頼性を確保するには求める製品に応じた信頼性試験を行い確認を行います。信頼性試験は、製品がさまざまな環境や条件下で正常に動作し続けるかを評価するための重要なプロセスです。
代表的な信頼性試験の種類と概要
分類 | 試験 | 概要 |
---|---|---|
環境系 | 温度サイクル試験 | 製品を高温と低温の環境に交互にさらし、急激な温度変化に対する耐性を評価します。 |
振動試験 | 製品が振動によるストレスにどの程度耐えられるかを評価します。振動にさらされる環境で使用される製品に対して行われます | |
湿度サイクル試験 | 製品を異なる湿度環境にさらし、湿度の変化による影響を評価します。腐食や絶縁性能の低下を防ぐために重要です | |
耐久性試験 | 製品が長期間にわたって繰り返し使用される場合に、どの程度の寿命を持つかを確認します。加速試験や机上計算で製品の寿命を確認します。 | |
IP試験 | 電気機械器具の外郭への異物、ホコリや水に対する保護等級を確認します。 | |
衝撃試験 | 製品が突然の衝撃に対してどの程度耐えられるかを評価します。輸送中や使用中に発生する可能性のある衝撃や落下に対する耐性を確認します。 | |
EMC関連 | エミッション試験(EMI) | 装置が出す電磁波がほかの装置に干渉しないことを確認します。 放射エミッション試験: 製品が動作中に放出する電磁波の強度の評価 伝導エミッション試験: 電源ラインを通じて放出される電磁ノイズの評価 |
イミュニティ試験(EMS) | 外部からの電磁干渉に耐えることを確認します。 静電気放電試験: 静電気を放電し、誤作動しない事を評価 電磁妨害波耐性試験: 電磁ノイズを外部から与えて耐性を評価 サージ試験: 雷などによる急激な電圧変動に対する耐性を評価 |
信頼性を保証する一般的な規格
環境系およびEMC関連の信頼性試験では信頼性を保証するための一般的な規格があります。規格に準拠することで信頼性試験の妥当性を確保します。
一般的な規格
規格 | 概要 |
---|---|
IEC 60068シリーズ | IEC 60068-1: 環境試験の一般的なガイドラインを提供します IEC 60068-2: 温度、湿度、振動、衝撃などの具体的な環境試験方法を規定しています |
ISO 16750シリーズ | 自動車用電子機器の環境試験に関する規格 |
JIS C 60068シリーズ | 日本工業規格(JIS)による環境試験規格で、IEC 60068シリーズに準拠しています |
IEC 61000シリーズ | EMC関連の信頼性を規定しています。 IEC 61000-4-2: 静電気放電(ESD)試験 IEC 61000-4-3: 放射無線周波電磁界イミュニティ試験 IEC 61000-4-4: 電気的ファストトランジェント/バーストイミュニティ試験 IEC 61000-4-5: サージイミュニティ試験 |
CISPR規格 | CISPR 11: 産業、科学、医療機器のエミッション試験 CISPR 22: 情報技術機器のエミッション試験 |
EN 550XXシリーズ | 欧州規格で、CISPR規格に基づくエミッションおよびイミュニティ試験を規定しています |
IEC 60601シリーズ | 医療用を目的とした電気機器の基本的性能と安全性を定める一連の技術規格です |
基板レベル、部品レベルで確認しておくべき信頼性
信頼性は装置レベルでの最終確認が必要になりますが、設計完了し装置組み立てた後では取り返しがつかないものもあります。
当社では試作設計時よりお客様の製品要求により、基板レベルで先行して確認を行います。
工程 | 概要 |
---|---|
仕様検討 | ・信頼性試験項目の洗い出し ・信頼性確保の開発方針の決定 |
設計 | ・温度や湿度など環境を配慮した部品選定 ・共振解析、伝送路シミュレーション ・シールドなどイミュニティ対策用部品の盛り込み ・ディレーティングやMTBFなど寿命に対する机上計算 |
試作評価 | ・振動試験 ・低温動作試験(起動、連続) ・高温動作試験(起動、連続) ・電圧変動 ・設計マージン ・温度サイクル試験 ・温湿度サイクル試験 ・イミュニティ試験 |
量産試作 | ・試作評価のフィードバック ・梱包落下 ・輸送振動 |
【実践】産業向け基板でこんな試験をしてみました
当社では産業機器向けのSoMを提供しています。この基板は産業機器メーカー様が安心してご使用いただけるように各種環境試験を行っています。


実施した試験例
工程 | 試験目的 |
---|---|
VCCI試験(放射イミュニティ) | 対象機器に対し、所定強度の電波をすること照射によって、誤動作が発生しないことを確認します。※図4 測定風景と結果のイメージ |
VCCI試験(放射エミッション、雑音端子電圧測定) | 対象機器から、所定以上のノイズ、電波が発していないことを確認します。※図5 測定風景と結果のイメージ |
ファーストトランジェントバーストノイズ試験 | 電源線と信号線にバーストノイズを印加し、対象機器の動作に異常が無いことを確認します。 |
静電気試験(間接放電) | 対象機器付近に設置した金属結合板へ放電し、対象機器が異常を示さないかを確認します。 ※図6 測定風景と結果のイメージ |
静電気試験(気中放電) | 対象機器に帯電した電極を近づけ、放電した際に、対象機器が異常を示さないことを確認します。 |
冷温起動試験 | マイナス温度状態で、対象機器の電源が正常に起動することを確認します。 |
LANケーブルノイズ試験 | ケーブルに印加に対するノイズに対して、FA用途に耐えうるノイズ耐量があるかを確認します。 |
100Base-TX コンプライアンス試験 1000Base-T コンプライアンス試験 |
対象機器に実装されたEthernet ポートに対して、100Base-TXならびに1000Base-T物理層の対応レベルを確認します。 |
図4 測定風景と結果のイメージ


図5 測定風景と結果のイメージ


図6 測定風景と結果のイメージ

角度 | 垂直結合板へ放電 | 水平結合板へ放電 |
---|---|---|
0度 | +4KVまでOK | +4KVまでOK |
-2KVまでOK | -2KVまでOK | |
右へ90度 | +2KVまでOK | +2KVまでOK |
-4KVまでOK | -1.1KVまでOK | |
右へ180度 | +2KVまでOK | +6KVまでOK |
-2KVまでOK | -1.2KVまでOK | |
右へ270度 | +4KVまでOK | +2KVまでOK |
-2KVまでOK | -1.4KVまでOK |
まとめ
前述の通り、産業機器や医療機器の製品開発において信頼性の確保は必要不可欠なものとなります。
ターゲット製品に合わせた規格適合も必要となります。完成品をくみ上げた後の確認では製品のリリースに影響を及ぼす可能性がある手戻りが発生する可能性があります。
完成品での試験を円滑に行うためには試作時から基板レベルでの配慮を行うことでリスクを最小限に抑える必要があります。
東京エレクトロンデバイスの受託開発ではお客様のご要望に合った信頼性の確認を試作時からご相談いただくことが可能です。