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食品ではないのになぜ賞味期限と表現するのか?
ベア基板の「賞味期限」とその「保管方法」について考える
プリント基板(PCB)は電子機器の心臓部ともいえる重要な部品であり、その部品を実装する前の状態のものを「ベア基板」と呼びます。ベア基板の使用や保管には多くの注意点が存在し、特に「賞味期限」や「保管方法」についての理解は、製品の品質と効率的な製造プロセスに大きく影響します。本特集記事では、ベア基板に関する基本情報から、賞味期限の重要性、保管方法、効率的な活用法について紹介します。
目次
ベア基板の賞味期限とは?
ご存じでしょうか? ベア基板にも食品と同じように「賞味期限」が存在することを。
正味な話、食べ物でもないのに「賞味」だなんて意味不明と思われる人もおられるのではと思います。ベア基板における賞味期限とは、基板表面の状態が部品実装や性能に影響を与える期限があるという性質を強調するための用語として使われています。
食品の賞味期限が「おいしく安全に食べられる期間」を示すのと同様に、基板の賞味期限は「適切に使用できる期間」を指します。この期限を過ぎても基板自体は物理的に存在しますが、性能や信頼性に影響を及ぼすため、注意が必要です。
PCB BARE BOARD 生板という表現・・・
ベア基板の事を「生板(なまいた)」と呼ぶことがあります。
これは「賞味期限」という表現と同様に、ベア基板の特性をあらわしている表現となります。
- 加工されていない状態を示す
「生板」という表現は、基板が部品実装や組立工程をまだ経ていない「素の状態」であることを意味します。これにより、後工程での加工が前提であることを強調しています。
「生(なま)」という言葉は、未完成または未処理の状態を指す比喩として広く使われる日本語表現です。- 素材としての特徴
ベア基板は表面処理によっては酸化や腐食が進みやすいデリケートな素材であり、適切に管理しなければ品質が損なわれます。「生」という表現には、こうした管理の必要性が含まれているとも解釈できます。
基板の賞味期限は以下の要因で決まります:
- 表面処理の種類(例: OSP、ENIG、HASLなど)
- 保管条件(湿度、温度、光など)
一般的には、以下のような表面処理に応じてその賞味期限も異なってきます。
表面処理の種類 | 特徴 | 一般的な賞味期限※ | 施工コスト |
---|---|---|---|
電解金めっき | 高い耐久性と導電性を持つが施工コストが高い。 | 1年以上 | 高コスト
下にいくにつれ 低コスト |
ENIG(金めっき) | 腐食に強い金めっき処理。高信頼性製品に適する。 「金フラッシュ」といえばこのENIGを指す場合が多い。 |
1年以上 | |
銀めっき(ImAg) | 平坦性が高く、はんだ付け性も良好だが、硫化に弱い。 | 約6~12か月 | |
スズめっき(ImSn) | 平坦性が高く、鉛フリー対応だが酸化に弱い。 | 約6~12か月 | |
HASL(鉛フリーはんだ) | はんだでコーティング。比較的耐久性がある。 「半田レベラー」と標記されることもある。 |
約1年 | |
OSP(有機保護膜) | 酸化防止膜で一時的に保護。はんだ付け性が良好だが、保護膜が劣化すると酸化が進みやすい。 「水溶性プリフラックス」はこのOSPの一種である。 |
約3~6か月 |
表面処理は、基板の性能や耐久性、製造プロセスを最適化するための必要不可欠な処理です。
基板の酸化防止、はんだ付け性の向上、環境への適応、信頼性の向上を目的として表面処理を施するわけなのですが、その表面処理自体が経時劣化してしまうこともベア基板に賞味期限が存在する理由のひとつとなっています。
PCB BARE BOARD ベア基板に表面処理を施す理由は…
- 銅表面の酸化防止のため
ベア基板の導体部分(通常は銅)は酸化しやすく、酸化すると接合性が低下します。表面処理は銅の酸化を防ぎ、基板の性能を長期間維持する役割を果たします。- はんだ付け性の向上のため
はんだ付け工程で、はんだがしっかりと接合することが重要です。表面処理は、銅の酸化層を防ぎつつ、はんだが容易に接合できる滑らかな表面を提供します。- 接触信頼性の確保
コネクタ部分やスイッチなどの電気接触部では、良好な接触特性が必要です。金めっきや銀めっきは接触抵抗を低減し、長期的な信頼性を確保します。- 使用環境への適応のため
製品が使用される環境に応じて、耐腐食性や耐湿性が求められます。- 製品の寿命延長のため
適切な表面処理を施すことで、基板や製品全体の寿命が延びます。- 製造工程の適応のため
表面処理は、次の工程(はんだ付け、実装など)の効率を向上させます。
賞味期限を過ぎた基板は使用してよいのか?
では賞味期限を過ぎた基板は使用してよいのでしょうか?
賞味期限を過ぎたベア基板でも、完全に使用不可というわけではありません。
しかし、以下のようなリスクが伴います:
- はんだ付け性の低下: 酸化したパッドははんだを受け付けにくくなります。
- 電気的特性の不具合: 腐食により断線や高抵抗化の可能性があります。
- 物理的な問題: 吸湿により加熱工程で剥離が発生する場合があります。
賞味期限を過ぎたベア基板を使用する場合は、事前に目視検査や導通検査、場合によっては酸化層の除去処理を実施し、適切な状態であることを確認する必要があります。
特に医療機器等、高信頼性が求められる製品では賞味期限内のベア基板を使用を求められる事も多いのではないでしょうか。
ベア基板の保管方法で賞味期限を延ばすには?
食品と同様、ベア基板の賞味期限を最大限に活用するには、その保管方法がキーポイントとなります。ベア基板の適切な保管は、その劣化を抑え、長期的に品質を維持するのに大変役立ちます。
以下に理想的な保管条件をまとめます。
表面処理の種類 | 理想的な条件 | ポイント |
---|---|---|
湿度 | 40%以下(推奨:10~20%) | 湿度が高いと酸化や腐食が進行しやすい。 防湿庫や乾燥剤を利用するのも〇。 |
温度 | 15~25℃(一定を保つこと) | 温度変化が激しいと基板の物性変化や湿気の吸収が進む。 冷暗所で保管するのが理想的。 |
光の影響 | 直射日光を避ける | 紫外線や熱による劣化を防ぐため、暗所または遮光性のある包装材での保管が良い。 |
密閉性 | 真空パックまたは防湿袋を使用 | 酸素や水分との接触を減らす。 ESD対策を考慮した静電気防止袋も有効。 |
大気環境 | 酸化防止ガス(窒素ガス)を充填可能であれば推奨 | 特に酸化しやすい表面処理(OSP、HASL)では有効。 |
物理的保護 | 基板同士の接触を避ける専用ラックで保管 | 表面の損傷や変形を防ぐため、基板を立てての保管や、間にクッション材を挟む等も有効。 追加の注意点として、保管中も定期的に基板の状態を確認し、必要に応じて追加対策を講じることも有効です。 |
ベア基板は、適切な保管方法を採用することで賞味期限を延ばし、品質を保つことが可能です。
湿度や酸化などの環境要因が基板の劣化を招くため、湿度を低く保つ防湿庫の活用や真空パックでの密封保存が効果的です。
また、温度管理も重要で、直射日光や高温多湿を避けることが推奨されます。さらに、表面処理の種類や製造日を考慮して早めに使用計画を立てることで、基板の劣化リスクを最小限に抑えることができます。
PCB BARE BOARD 湿度管理により期待できる表面処理の劣化抑制効果は?
例えば、推奨湿度40%以下(10~20%)を維持することで、一般的に以下のような劣化抑制効果が期待できます。
- 酸化速度: 50~70%低減
- はんだ付け性の低下: 60%以上抑制
- 吸湿による膨張や歪み: 70%以上低減
- 腐食によるダメージ: 60~80%低減
このように湿度40%以上の環境に比べて、劣化速度を少なくとも50~70%※抑えることが期待できます。
ただしこの効果は特に表面処理の種類や基板の材質に依存するため、具体的な状況に応じた湿度管理が重要になります。
賞味期限切れベア基板の使用判断は誰がするのか?
ベア基板の賞味期限は、その劣化を防ぐためメーカ側より「推奨された」保管期限を指すと説明しました。
しかしながら前述のとおり、賞味期限を過ぎたベア基板でも、完全に使用不可というわけでは無いため、実際にそれを使用するかどうかの判断は、最終的にその使用者に委ねられることになります。
ベア基板の劣化の進行度は保管環境や表面処理の種類に左右され、用途による品質基準の違いも判断に影響します。高い信頼性が求められる製品では慎重な判断が必要となりますが、追加検査を経て使用可能と判断できるケースも多くあります。
結局のところその使用者が、基板の状態や使用目的を考慮し、リスクを理解した上で適切に判断することを求められるのです。
PCB BARE BOARD 賞味期限の切れたベア基板の使用判断が最終的に使用者に委ねられるのは…
- 劣化の影響が使用条件に依存するから
ベア基板の劣化(酸化、腐食、はんだ付け性の低下など)の進行度は、保管環境や基板の表面処理によって異なります。一般的な基準が存在しても、実際の影響は個別の条件次第となります。- 用途に応じた品質要求に差異があるから
製品の使用環境や寿命に対する要求はケースバイケースです。高信頼性を求められる用途では基準が厳しくなるが、そうでない用途であれば許容される場合もあります。- 標準的な検査では判断が困難だから
賞味期限切れの基板が問題なく使用できるかどうかを完全に判断するのは困難であり、追加の検査やテストを行う必要性も出てきます。責任分担の原則として・・・
賞味期限はメーカーが推奨する保管期間を示すものですが、実際の使用可否はそれを使用する設計者や製造者が責任を持って判断する必要があります。
賞味期限切れのベア基板の使用判断には以下の基準が役立ちます:
- 基板状態の確認: 酸化、腐食、湿気吸収などがないか検査。
- 用途のリスク評価: 高信頼性製品には使用せず、プロトタイプや短期間の試作で活用。
- 製造者への相談: 基板製造元から具体的な再処理方法や使用可否についてのアドバイスを得る。
ベア基板の賞味期限や保管・活用方法を適切に管理することは、製品の品質と効率的な生産に直結します。特に、基板の賞味期限内の使用を基本としつつ、保管条件の改善や調達計画の最適化によってリスクを最小限に抑えることが重要です。
食品の賞味期限と同様、この期限を意識することで、ベア基板のパフォーマンスを最大限引き出すことができます。
効率的なベア基板の活用法は?
とはいえ長期保存を避け調達と使用のバランスを最適化することが、製品の信頼性向上と無駄の削減につながる重要ポイントになることは言うまでもありません。基板の賞味期限や品質リスクを管理するためには、効率的な調達と消費計画を管理することが必要になります。
実装部品の納期と基板リードタイムの調整
実装部品の納期が長い場合、部品が揃うタイミングに合わせて基板の発注タイミングを調整します。生産スケジュールに基づいて基板を分割発注することで、在庫の長期保管を回避します。
安全在庫と柔軟な調達
基板や部品の適切な安全在庫を設定し、突発的な需要変動にも対応できるよう準備します。短納期に対応可能なサプライヤーを確保し、計画の変更にも柔軟に対応できる体制を整えます。
製造プロセスの統合管理
ITツール(MRPやERPシステム)を活用し、基板と部品の調達を効率化。サプライチェーン全体の連携を強化し、在庫やリードタイムを可視化します。