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生産現場 計測・検査

脱炭素社会への切り札 【次世代パワー半導体】
ワイドバンドギャップ SiC パワーデバイスとは

脱炭素社会への切り札 SiCパワーデバイスについて解説(デバイス編)

 

従来のSiパワー半導体に比較して劇的に電力効率を高められるワイドバンドギャップ半導体。その中でもいち早く量産化が進む、SiCパワー半導体デバイスについて解説します。

 

 

SiCパワー半導体需要増加の背景は?

 

あらゆるものがインターネットでつながる、IoT社会の到来が目前と迫っています。IoT社会では、スマホ、時計、車をはじめ、あらゆるものが常時データ通信する時代となり、またメタバース、デジタルツインといった仮想空間の広がりとデータ通信の急増を受け、データ通信量は年率30%近い伸びをみせることが予想されています(2030年は2020年比約15倍)。

 

世界のデータ量推移予測

世界のデータ量推移予測-2030
経済産業省 「次世代インフラの構築」プロジェクトに関する研究開発・社会実装計画(案)の概要
2021年より抜粋
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/green_innovation/industrial_restructuring/pdf/003_04_00.pdf

 

情報通信機器の省エネが全く進まないと仮定すれば、単純計算で15倍の電力が必要となる計算となります。2030年以降もさらにデータ通信量が増えていくことが予想されます。供給できる電力量には限りがあり、いかに効率よく電力を使用するかが今後さらに重要になります。

 

日本国内-電源構成比率2010-2030

日本国内 電源構成比率2010-2030 経済産業省
2030年度におけるエネルギー需給の見通し(関連資料) 2021年より抜粋
https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/pdf/20211022_03.pdf

 

脱炭素の観点より、今後全世界的に再生可能エネルギーの普及が一層すすむと予想されますが、(日本では2018年の18%から2030年は倍の36%目標)大電流をいかに効率よく供給するかも重要です。

世界の電力需要比率

世界の電力需要比率 経済産業省
半導体戦略(概略)2021年より抜粋
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/joho/conference/semicon_digital/20210603008-4.pdf

 

また、車の電動化により、従来より高耐圧なモーターインバータ、充電器も急速な普及が予想されます。上記背景により、従来のSiよりも高電圧を高効率に制御するSiCパワー半導体の需要が急速に高まっています。

各国の自動車電動化の目標

各国の自動車電動化の目標 経済産業省
第4回 モビリティの構造変化と2030年以降に向けた自動車政策の方向性に関する検討会2022年より抜粋
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/mobility_kozo_henka/pdf/004_03_00.pdf

 


 

SiCパワー半導体の用途は?

 

世界のパワー半導体市場は2019年で約2.9兆円で、このうち98%以上をSiパワー半導体が占めています。2030年には4.3兆円に増大し、SiC、GaN、Ga2O3等のワイドバンドギャップ半導体の市場が著しく伸びてパワー半導体全体の10%の規模に到達すると予想されています。

パワー半導体の市場(世界)

パワー半導体の市場(世界)
経済産業省 「次世代デジタルインフラの構築」プロジェクトに関する研究開発・社会実装計画(案)の概要
2021年より抜粋
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/green_innovation/industrial_restructuring/pdf/003_04_00.pdf

 

SiCパワー半導体は、従来のSiパワー半導体に比べて、耐圧性、耐熱性、スイッチング特性に優れているので、中容量帯向けパワーMOSFET*¹としてデータセンター用電源、 再生可能エネルギー用パワーコンディショナー、 EV用インバータとして採用が進んでいます。中でもEVインバータ用途の急採用が進んでおり、SiC普及のキーデバイスとなっております。

パワー半導体用途分類

パワー半導体用途分類 経済産業省
「次世代デジタルインフラの構築」プロジェクトに関する研究開発・社会実装計画(案)の概要
2021年より抜粋
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/green_innovation/industrial_restructuring/pdf/003_04_00.pdf

 

なぜEV用インバータにSiCが採用されているかですが、SiCパワーMOSFETを使用することにより、その高い電力効率のみならず、高温に強いといった特性なども含めシステムとして見た場合コストを下げられる点にあります。

SiCインバータを使うと、Siインバータに比べて価格が100ドル上昇しますが、電池と熱制御部分を小型化することができ、それによって300ドルのコスト削減が可能と言われています。電動パワートレイン*²全体で200ドルのコスト削減ができると考えられます。

EV用パワートレイン構成

EV用パワートレイン構成 経済産業省
「次世代蓄電池・次世代モーターの開発」プロジェクトに関する研究開発・社会実装の方向性 2021年より抜粋
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin//green_innovation/industrial_restructuring/pdf/003_02_00.pdf

 

小型化については、例えばSiベースのIGBTとSiC-SBD*³のパワーモジュール*⁴に比較して、Si-MOSFETとSiC-SBDのパワーモジュールにてそのサイズは43%、重量は6kgカットされたとの発表もあります。

 


 

SiCパワー半導体の構造は?

 

SiCパワーMOSFETの特徴としては、高耐圧かつ低損失であり、デバイスの小型化が可能であるということがあげられます。それを可能にしているのは、SiCの物性とSiCパワーMOSFETの構造にあります。

物性についてですが、SiCのワイドバンドギャップ(WBG)はSiの3倍、絶縁破壊電界強度(臨界電界強度)はSiの約10倍、熱伝導率はSiの3倍、そして電子飽和速度はSiの約2倍です。このような特性をパワーデバイスで利用することにより、下記の利点が得られます。

 

  • WBGの増大:WBGが大きいほど、臨界破壊電圧が高く、高電圧および高電力のアプリケーションにおける適性が増加
  • 電子飽和速度の上昇:この値が高いほど、デバイスのスイッチング速度が上昇し、高電圧の高周波数動作に必要な駆動力が小さくなるため、エネルギー損失が減少。また、より小型の周辺デバイスを高周波回路で使用できるようになり、システムの小型化に寄与
  • 熱伝導率の向上:冷却システムの追加を回避できるため、コストおよびサイズの最適化に寄与
  • 単位面積あたりのドレイン・ソース間オン抵抗の低下:損失を効果的に削減

 

性能項目 Si 4H-SiC
バンドギャップ(eV) 1.12 3.26
電子移動度(cm2/Vs) 1350 1000
絶縁破壊電界(MV/cm) 0.3 2.8
電子飽和速度(cm/s) 1.0×107 2.2×107
熱伝導率(W/cmK) 1.5 4.9

 

またパワーMOSFET構造による利点ですが、縦方向に電流を流すことで、電流密度を増やし、大きな電流を流すことが可能です。多数キャリアデバイス*⁵のため高速スイッチング動作が可能で、スイッチング時の電力損失が少なく済みます。

従来のSi MOSFET構造では、高速スイッチング動作はSiCと同様に可能でしたが、耐圧が200Vほどで、耐圧が低い問題がありました。SiCパワーMOSFETでは6500Vまでの耐圧にすることができます。

また、絶縁破壊電界強度がSiの10倍のため、ドリフト層(N-層)*⁶のドーピング濃度を100倍濃くできるために、ドリフト層の距離を1/10に短くすることができます。

単位面積あたりのオン抵抗がSi比で1/1000になり、電流の損失を少なくできます。またドリフト層が薄くなることで放熱効果も高まり、実装時の冷却装置の小型化にも寄与します。

ドリフト層の単位面積

ドリフト層の単位面積当たりの抵抗 Si
ドリフト層長さ÷N-層キャリア濃度
=1/10(Si比1/10長さ)÷100(Si比100倍濃度)
=1/1000

 


 

SiCパワー半導体の課題とは

 

SiCパワー半導体はコスト面がSiに対し高い問題があります。SiCパワー半導体の価格が高い原因として、半導体素子を作るための基となるウェハ材料が高価であることと(Siの4~5倍ほど)SiCパワー半導体の長期信頼性を確保することが困難であることが挙げられています。

この2つの課題のうち、材料に起因する問題はSiCウェハの8インチ大口径化によりSi比の金額が2倍程度になることが見込まれていますが、生産性向上のため昇華法に代わる、溶液法をはじめとする技術の開発が行われています。

後者についてはSiCウェハに存在する結晶欠陥に起因するため、根本的な解決が難しいとされています。SiCの結晶欠陥の中でも、長期信頼性に悪影響を与えるものとして積層欠陥が知られています。

SiCパワー半導体製のダイオードに電流を流すと、この積層欠陥が拡張する現象が起き、BPD(基底面転位)という転位が、2つの部分転位に分かれて運動し、その2つの距離が広がることによって拡張してしまうことが知られています。

この積層欠陥の拡張と、それに伴う電気抵抗の増大はバイポーラ劣化と呼ばれ、SiCパワー半導体の長期信頼性の課題となっています。

BPD を低減した基板の開発や、エピ成長初期に BPD を貫通刃状転位(threading edge dislocation:TED)に変換する技術が開発されており、どのような欠陥がバイポーラ劣化を引き起こすか、またはバイポーラ劣化を起こす再結合電流のしきい値の評価が進められています。

SiCの実用化は始まったばかりであり、Si半導体と同様に、今後も時間をかけて性能向上とコスト削減が進んでいくと考えられます。

SiC材料基板製造方法

SiC材料基板製造方法 経済産業省
「次世代デジタルインフラの構築」プロジェクトに関する研究開発・社会実装計画(案)の概要
2021年より抜粋
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/green_innovation/industrial_restructuring/pdf/003_04_00.pdf

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*¹ パワーMOSFET:パワーMOSFETは、電力を効率よく扱うために設計された縦型構造の金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)です。IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)やサイリスタなどの他のパワー半導体デバイスと比較して、多数キャリアデバイスのためスイッチング速度が速く、また、ゲートが絶縁されているため、電圧で駆動し、低電圧で効率よく、電流を流すことが可能です。

*² 電動パワートレイン:EVにおいてタイヤを駆動させるために必要な部品群です。バッテリー、インバータ、モーター、トランスミッションの4部品からなります。バッテリー以外の3部品を組み立てしたものをEアクスルとも言います。

*³ SBD:ショットキーバリアダイオードのことです。ショットキーダイオード、ホットキャリアダイオードとも呼ばれ、半導体と金属の接合により形成される半導体ダイオードです。MOSFETと同様に多数キャリアデバイスとなります。順方向電圧降下が小さく、スイッチング動作が非常に速いのが特徴です。シリコンのp-nダイオードの順方向電圧は600〜700mVですが、ショットキーの順方向電圧は150〜450mVです。この順方向電圧の低さが、スイッチング速度の高速化とシステム効率の向上を可能にしています。

*⁴ パワーモジュール:パワーモジュールまたはパワーエレクトロニクスモジュールは、複数のパワーコンポーネント(通常はパワー半導体デバイス)を物理的に格納するものです。これらのパワー半導体(いわゆるダイ)は、通常、パワー半導体を搭載し、必要に応じて電気的および熱的接触と電気絶縁を提供するパワーエレクトロニクス基板上にはんだ付けまたは焼結されています。パワー半導体1個が格納されている、ディスクリートパワー半導体と比較して、パワーパッケージは高い電力密度を提供し、多くの場合、より信頼性が高くなります。
MOSFET、IGBT、BJT、サイリスタ、GTO、JFETなどのパワーエレクトロニクス・スイッチやダイオードを1個搭載したモジュール以外に、複数の半導体ダイを搭載し、それらを接続してトポロジーと呼ばれる特定の構造の電気回路を形成するものが一般的なパワーモジュールです。モジュールには、スイッチング電圧のオーバーシュートを抑えるためのセラミックコンデンサや、モジュールの基板温度を監視するためのNTCサーミスタなど、他のコンポーネントも含まれています。

*⁵ 多数キャリアデバイス:ユニポーラデバイスともいいます。パワーMOSFETでは、N型半導体のため電子が多数キャリアとなり、電子の移動のみで電流が流れるので、ON/OFFスイッチングがバイポーラデバイスにくらべて高速に行えます。

*⁶ ドリフト層:ドリフト層は、ドレイン側に高電界が印加されたときにバッファ層として機能し、デバイスの破損を防止する層です。Nチャネル型のパワーMOSFETでは、N層がドリフト層として使用され、不純物濃度が低い層N-がドリフト層となります。(高い層はN+と記載します。)

 


 

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