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【画像処理マスターへの道】
ライティングとフォトメトリックステレオ法の最前線
―― CCS × TED 技術対談「第1弾」
はじめに
外観検査で最も重要なのは、対象物の素材や、そこに生じる欠陥の成り立ちを正しく理解することだと私たちは考えています。画像処理アルゴリズムそのもの(ルールベース/AI)は近年大きく発展し、「手法そのものはひと通り出揃った」と感じられる場面も増えてきました。一方で、「見たい部分をいかに強調し、安定して見えるように撮るか」というライティングと前処理の領域には、まだまだ大きな伸びしろが残されています。
ここ数年、分割点灯照明を用いることで3次元的な凹凸情報を強調できるフォトメトリックステレオ法(照度差ステレオ法、以下「フォトメト」)がFA分野でも広く使われるようになってきました。ライティングのスペシャリストであるシーシーエス株式会社(以下、CCS)は、分割点灯照明のバリエーション拡充に注力しており、東京エレクトロンデバイス(以下、TED)もフォトメトをライブラリとして提供し、ソリューション案件での活用を進めています。
本記事では、全3回の連載を通じて、CCSのテスティングルームで多数のサンプル撮像を行ってきた知見をもとに、分割点灯照明の使い分け、評価から導入へ進む際の典型的なハードル、さらには高精度な3次元情報・分光情報の活用までを、TEDとの対談形式で紐解いていきます。
2種類の分割点灯照明とその使い分け
「見えればいい」から一歩先へ
目視検査の現場では、検査員が対象物をわずかに動かしながら、光り方の違いや小さな違和感を丁寧に拾い上げている場面が少なくありません。再現性を高めるためのマニュアルの整備はもちろん、より適した照明の工夫も行われています。一方で、目視検査には検査員の負荷軽減や人員不足といった課題は常に付きまとい、最終的なゴールはあくまで自動検査の実現にあります。
「量産ラインでの自動検査に必要なライティング技術は、目視検査を補助するレベルよりも一段ハードルが上がります。欠陥部分とそうでない部分のコントラストをしっかり確保しつつ、欠陥ではない箇所まで強調してしまわないこと(過検出・虚報の抑制)の両立が求められるためです。そのためには、照明の種類や角度、距離など、検討すべき要素はいくらでもあります」(CCS社)
どのレベルまで“追い込んで見せたいか”によって、必要なライティング設計の深さが変わる――
これが今回の対談を通じて何度も出てきたキーワードです。
リング照明とフラットドーム照明の役割
分割点灯照明というと、まず思い浮かぶのがリング照明です。対象物を取り囲むように配置された複数のLEDを順番に点灯することで、陰影の違いから3次元的な凹凸情報を取り出すことができます。
リング照明は、比較的フラットな面に出る打痕や傷、微小な凹凸を強調するのに適しており、フラットドーム照明は、光沢面や立体的な形状で生じる映り込みを抑えつつ、必要な凹凸だけを抽出しやすい構造になっています。
フォトメトの計算には光源方向の情報が必要ですが、フラットドームのような包み込む照明でも、内部をセグメントごとに制御することで実質的な「光源方向」を持った点灯制御が可能です。

フラットドーム型の分割点灯照明のデモ 金属光沢のあるカードケースの表面にある打痕を強調している様子
フォトメトの使いどころ
単に凹凸を強調するにはローアングル照明も有効ですが、地模様や印刷などをキャンセルして凹凸だけを強調できることがフォトメトリックステレオ法の強みです。
中でもフォトメトでないと、という一例を挙げるとすれば、印刷の中にある皺の検出です。凹凸の段差を強調するだけであればローアングル照明も得意としていますが、印刷も見えてしまいます。フォトメトであれば印刷をキャンセルして凹凸だけを強調できることが、フォトメトならではの強みです。

フォトメトは凹凸の計測ではなく強調という捉え方です。どの程度の凹凸まで見えそうかの使いどころを見極める一つの目安を教えてもらいました。
「フォトメトで高さの計算もできはしますが、計算時間と精度の面から厳密な計測にはあまり向いてはいません。なので、あくまで計測ではなくて強調という使い方になります。まずは斜めから照明を当ててみて、陰影の付き方が変わって見えるのであれば、フォトメトが有効な候補になります。」(CCS社)
CCSのテスティングルームには、「フォトメトなら解決の糸口が見つかるのでは」と大きな期待を寄せてサンプルをお持ち込みいただくお客様が数多くいらっしゃいます。その中には、実際に拝見するとフォトメト“だけ”よりも、別のライティング手法や組み合わせの方が適していると判断されるケースもあります。
「そうした場合でも、お客様の目的を丁寧に伺いながら、光学的な背景を踏まえて最適なライティング構成をご提案しています。フォトメトは数あるライティング技術の一つであり、“凹凸をどう強調するか”という選択肢を広げてくれる手法のひとつだと捉えていただければと思います。」(CCS社)
フォトメトの調整ポイント
フォトメトの計算には、点灯している照明ごとの光源方向パラメータが必要になります。
「まずはある程度ラフに方向を決めてから、結果を見ながら微調整していく運用が多いですね。本当に追い込みたいケースでは、照明にスリットを追加して光源方向をより限定する工夫をすることもあります」(CCS社)
理論上は平行光を仮定しますが、実際の照明環境ですべてを厳密に満たすのは現実的ではありません。それよりも、原理にこだわり過ぎて使いづらくしてしまうより、「まずは撮ってみる」「迷ったらCCSに相談する」というスタンスの方が、評価も前に進みやすくなります。
「バー照明も、少し離れた位置から照射することで平行光に近い状態になり、良い結果が得られることがあります。分割点灯リング照明のように一体型ではないぶん、多少の手間はかかりますが、その分柔軟に調整できるのがメリットです」(CCS社)

TED製の評価ツール(WIL-Builder)の設定画面の例:
リング照明の半径と高さ、初期角度、回転半径から光源方向を計算する補助機能
CCSとTEDの役割分担
最適なライティング方法が見つかったあと、自動検査として本番ラインに載せる段階で必ず出てくるのが、「撮影した画像を誰がどのように処理するのか」という役割分担の問題です。
「照明メーカーである当社としては、最適なライティング技術の選定と照明装置のご提供までが基本的な守備範囲です。その先の画像処理やアルゴリズム構築を誰が担うのかが、お客様にとっての課題になりやすい部分です」(CCS社)
今回の取り組みでは、この後段をTEDが受け持つことで、ライティングと画像処理という二つの専門領域をシームレスにつなげられることを改めて確認できました。その結果、お客様にとっても導入までのハードルが下がり、「評価で終わらせず、実導入までスムーズに持っていける」体制づくりが期待できます。
移動体への対応 ― 高速ラインでもフォトメトを活かすには
評価段階では良好な結果が得られても、本番ラインへの導入時には別の課題が立ち上がってきます。その代表例が、対象物が高速に移動しているケースです。コンベア上を流れるワークに対して複数方向の照明を順次当てると、照明を切り替える間のワークの移動量が懸念になります。
エリアカメラを用いた通常のフォトメト撮像環境で、対象物をわずかに振ると、輪郭や印刷のエッジが浮き上がって見える様子を実演していただきました。
「点灯方向を切り替えているわずかな時間差のあいだに対象物が動いてしまうと、その差分が意図せず強調されてしまいます。本来は対象物が静止している状態が理想です。そこで、点灯切り替え自体を高速化して差を小さくする方法や、ワンショットで分割点灯相当の情報を取り出す方法などをご提案しています」(CCS社)
このようなケースに対しては、例えば:
- RGBワンショット:1回の撮像画像を波長毎に分離することで、分割点灯に相当する情報を取得する手法
- Quad Shutter Control機能搭載カメラ:カメラのピクセル毎に露光タイミングを高速に切り替えて、点灯する照明方向も同期させることで、各照明点灯間の対象物の移動量を小さく抑える手法
- ラインスキャン:ラインセンサと同期した分割点灯制御により、広幅ワークを連続的に走査しながら3次元的な凹凸情報を得る手法
といったアプローチが考えられます。

LFXV-RGB ワンショットフォトメトの例

ラインスキャンカメラ+フォトメトの例
もう一つの典型的な課題は、対象物のサイズが大きい場合です。通常のエリアカメラでエリアを分割して撮像すると処理時間が増えてしまいますし、分割点灯照明の径を大きくするにも物理的な限界があります。照明径が大きくなるほど、中央部と端部の明るさの差も無視できなくなります。
このようなケースでも、ラインスキャン方式は有効な選択肢となります。
CCS側で「高速ラインでも現実的に運用できるライティング構成は何か」を提案し、TED側でそれを前提にカメラ制御や画像処理アルゴリズムを設計することで、評価環境と量産環境のギャップを着実に埋めていくことが可能になります。
おわりに
分割点灯照明とフォトメトリックステレオ法は、「とりあえず見える」から一歩進んで、「量産ラインで再現よく見せる」ための強力な武器です。ワークの材質や形状、ライン速度、設置制約によって最適解は変わりますが、ライティングの工夫と画像処理の知見を組み合わせることで、これまで諦めていた検査にも現実的な解決策が見えてきます。
CCSが培ってきた豊富なライティング技術と、TEDの画像処理・AIのノウハウを掛け合わせることで、「狙った欠陥だけを安定して浮かび上がらせる」検査環境づくりを、評価段階から量産立ち上げまで一貫してご支援していきます。本コラムが、皆さまの現場でのライティング見直しやフォトメトリックステレオ法の活用を検討する際の、一つのヒントになれば幸いです。
次回は、評価段階では良好な結果が得られても、いざ本番ラインへの導入となると生じる課題を例に高精度な3次元情報の可視化についてご紹介予定しております。
会社名 シーシーエス株式会社本社所在地 京都市上京区室町通出水上ル近衛町38
代表 大西 浩之(代表取締役社長)
WEBサイト https://www.ccs-inc.co.jp/

