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共創パートナーに聞く!
電流を流さずに“光”で欠陥をあぶり出す
SiC通電劣化を再現する評価装置、開発への道のり
株式会社アイテス様
SiCパワー半導体の量産・普及を阻む「通電劣化」という未解決課題に対し、株式会社アイテス(以下、アイテス)は光を用いた革新的なシミュレーション技術で挑んでいます。
同社が開発した「Bipolar Degradation Simulator(バイポーラ劣化シミュレーター)」は、デバイスの試作工程を経ずにウェーハ段階で欠陥を可視化・評価できるのが特徴です。同社 代表取締役社長の五十嵐 靖行氏と開発リーダーの森田 拓弥氏に、この開発の背景から技術的特徴、そして東京エレクトロンデバイス(以下、TED)とのパートナーシップについて伺いました。
目次
【インタビュイー】

株式会社アイテス
代表取締役社長
五十嵐 靖行 氏

株式会社アイテス
製品開発部 技術課
係長
森田 拓弥 氏
1,000工程を終えて初めてわかる不良——
従来スクリーニング手法が抱える構造的な問題とは
――まずはアイテス様の概要をご紹介ください。
五十嵐氏:アイテスは1993年、日本IBM野洲事業所の品質保証部隊が分離独立する形で設立されました。IBMが2000年前後に国内ハードウェア事業から撤退する流れの中で、これまで培ってきた品質保証・試験技術を外部向けにサービス提供することを目的とするものです。元々の社名の由来は”International Test & Engineering Services”の頭文字で、現在はカタカナの「アイテス」として商標登録しています。
現在の事業は、半導体や電子部品の故障解析・材料分析と、光学技術を基盤とした検査装置の開発・製造を大きく2つの柱としています。特に後者は太陽光パネルの検査装置で業界内の知名度を有しており、その技術的知見がSiC(シリコンカーバイト)デバイスの検査装置である「Bipolar Degradation Simulator」の開発につながりました。
――SiCデバイスを手がけるメーカーは、どんな課題を抱えているのでしょうか。
五十嵐氏:SiCはシリコンよりも高温・高電圧環境での動作に優れており、主にEV(電気自動車)や産業機器のパワー半導体として急速に普及しています。ただし、シリコンにはない特有の課題があります。それが「通電劣化」です。
SiC結晶の内部には製造段階から積層欠陥が潜んでいて、デバイスとして電気を流し続けるうちにその欠陥が拡張し、電気抵抗が上昇してパフォーマンスが低下していきます。シリコンではほぼ問題にならないキラー欠陥が、SiC基板では1平方センチメートルあたり数百個も存在することがあり、しかも作りたての段階では表面化しません。
この課題は現象の発見から20年以上が経つ現在も完全には解決されておらず、長年にわたって技術者を悩ませてきました。
――そうした問題に、各企業はどのように対処しているのですか。
五十嵐氏:デバイスメーカーの多くは、出荷前に「バーンイン」(Burn-in)と呼ばれるスクリーニング手法で対応しています。完成したデバイスに意図的に強い電流を流し、欠陥を早期に顕在化させてから不良品を除外するのです。
しかし、これには大きな問題があります。パワー半導体は消費電力が大きいため一度に大量処理ができず、膨大なコストと時間がかかります。さらに、欠陥の多くはウェーハを受け入れた段階からすでに潜んでいるのに、1,000工程以上に及ぶデバイス製造プロセスをすべて終えた最終段階になってからでないとスクリーニングできません。不良が判明した時点では、それまでの工程がすべて無駄になってしまうわけです。
Bipolar Degradation Simulatorの開発経緯と4つの技術的特徴
――Bipolar Degradation Simulator開発のきっかけを教えてください。
五十嵐氏:着目したのは、特定波長の紫外線(UV)を照射するだけで、通電時と同じ積層欠陥の拡張現象が再現できるという、業界では20年来知られていた現象です。電流を流さなくても光を当てることで欠陥を拡大できるなら、ウェーハ段階での非破壊評価が可能なのではないかと考えたことが出発点です。
この発想自体は2010年代にドイツのフラウンホーファー研究機構が論文で提唱していましたが、光源の出力不足などから量産への実用化を断念した経緯があります。当社は太陽光パネルの検査装置開発で蓄積したフォトルミネッセンス(PL)技術を活かし、光源をUVランプからUVパルスレーザーに切り替えることで出力の壁を突破しました。およそ7年の開発期間を経て商用装置として製品化にこぎ着けました。
――装置の基本的な仕組みを教えてください。
森田氏:一言でいえば「デバイス製造工程を経ずに、ウェーハ段階でバーンイン相当の評価が行える装置」です。従来は欠陥を顕在化させるために数カ月かけてデバイスを試作する必要がありましたが、当社の装置では特定波長のUV光を照射することで同じ現象を引き起こします。評価結果はPL観察によって可視化され、欠陥は三角形や棒状の特徴的な形状で確認できます。ウェーハメーカーであれば出荷前検査に、デバイスメーカーであれば受け入れ検査やプロセス改善評価に活用いただけます。

アイテスの独自技術による通電劣化の再現
――技術的には特にどんな点に注力したのですか。
森田氏:SiCデバイス関連の国際学会でも発表した特徴があります。それは「均一性」「高出力」「相関性」「温調管理」の4点です。
――順に教えてください。まず「均一性」とはいかなるものですか。
森田氏:通電劣化は非常に複雑な現象で、照射光が弱かったり、ムラがあったりすると欠陥の拡張が進まなかったり、逆に後退したりします。したがって狙った強度でサンプル全面に均一に照射する設計が欠かせません。一般的な光源はそのままでは照射均一性が低いことから、私たちは光学系を工夫してサンプル面内での均一照射を実現しました。
――2点目の「高出力」についてはいかがでしょうか。
森田氏:EVや産業機器では、今後ますます大電流が流れるアプリケーションが増えていきます。この変化に対応するためには、より高強度のUV照射が必要です。Bipolar Degradation Simulatorでは電流密度換算で2,000〜3,000 A/cm² 相当のストレス印加が可能で、バーンインでも難しいレベルのストレスを光で再現できます。
五十嵐氏:当初はUVランプで実験していましたが、フラウンホーファー研究機構が断念したのと同じ壁にぶつかりました。出力が弱く、大型の帯状欠陥を再現できなかったのです。そこで前述したとおりUVパルスレーザーに切り替えたことで、大幅なに高出力化が実現しました。将来の大電力デバイスにも余裕を持って対応できる性能です。
――3点目の「相関性」はどういう意味でしょうか。
森田氏:多くのデバイスメーカーが関心を持っているのは、「何アンペアの通電に相当するか」という尺度です。Bipolar Degradation Simulatorが照射するのは光であるため、電流と光の強度を結びつける等価換算式が技術の核心部分となります。サンプル情報と目標とする電流値を入力していただければ、それに相当するUV照射条件を装置が自動計算してストレスを印加する仕組みとなっています。
―― 最後の「温調管理」について教えてください。
森田氏:積層欠陥の拡張は印加するストレスだけでなく、温度にも強く依存します。例えばEVのパワーモジュールではデバイス素子の発熱が150度近くに達することも珍しくありません。Bipolar Degradation Simulatorでは電流密度相当の照射に加え、実際の使用環境温度も再現できるよう温度調整機能を搭載しており、より実使用条件に忠実なシミュレーションが可能となっています。
評価期間の劇的短縮とウェーハ段階での早期検出を実現
――この装置を導入することで、どのような効果が期待できますか。
森田氏:最も大きいのは評価期間の劇的な短縮です。SiCデバイスを試作して電流を流し欠陥を顕在化させるまでには、数カ月~半年を要する場合があります。これに対してBipolar Degradation Simulatorでは試作工程を不要とし、同等の評価を数日〜数時間で行うことが可能です。端的に言えば、評価に要するリードタイムを「月単位」から「日単位」に短縮するインパクトをもたらします。
五十嵐氏:加えて重要なのは、評価タイミングを大幅に前倒しできることです。繰り返しになりますが、欠陥の多くはウェーハの段階から潜んでいるにもかかわらず、従来はデバイス完成後の最終工程でしかスクリーニングができませんでした。Bipolar Degradation Simulatorを適用すればウェーハ受け入れ段階で評価できるため、その後の製造工程の無駄を根本から削減できます。これらのメリットは、すでに国内外10社以上のデバイスメーカーやウェーハメーカーから注目されて試用・評価を進めており、大きな手応えを感じています。
東京エレクトロンデバイスとの協業で量産ライン展開へ
――TEDとパートナーシップを組むことになった経緯を教えてください。
五十嵐氏:SiCの国際学会に出展した際、欧州半導体業界のあるコンサルタントが当社ブースに立ち寄り、Bipolar Degradation Simulatorの技術に強い関心を示すとともに、「今後の製品化に向けては外部のビジネスパートナーが必要だ」と助言してくれました。そして、紹介してくださったのがTEDだったのです。
――両社は現在、どのような役割分担で協働しているのですか。
五十嵐氏:当社は少数精鋭でコア技術の開発に集中していますが、一方で製品としての仕様策定や筐体設計に関する知見やリソースが不足しています。TEDにはそうした領域の幅広い支援をいただくとともに、半導体業界を広くカバーした販売チャネルとマーケティング力を活かし、国内外への市場展開を共に進めていこうとしています。
――今後のロードマップを教えてください。
五十嵐氏:現在、2026年度中に初号機を出荷すべく準備を進めています。まずはR&D(研究開発:Research and Development)分野の精緻な評価装置として実績を積み、3〜4年以内には量産ラインにおけるスクリーニング装置としての本格展開を視野に入れています。6インチや8インチのウェーハ全面を量産ラインで要求される時間内でスキャンするためには、もう一段のブレークスルーが必要ですが、段階的なアップグレードで着実にスループットを高めていきます。

株式会社アイテス/東京エレクトロンデバイス株式会社で開発した 新製品SiC 潜在欠陥検査装置/通電劣化シミュレーター「ITS-SCX100」イメージ UV照射による潜在欠陥拡張とPL顕微鏡による潜在欠陥観察機能を1台に備えている
写真左:五十嵐氏 写真右:森田氏SiCパワー半導体は、次世代の社会インフラの根幹を支える多様なデバイスへの搭載が急拡大しているだけに、
業界の第一線で活躍される皆様から「まさに待ち望んでいた装置だ」という声を数多くいただいています。
高まる期待にお応えすべく、アイテスはTEDと密に連携しながら技術開発と市場展開を加速していきます。


